「日米仏の思考表現スタイルを比較する.」

2012年10月31日

日本とアメリカとフランスの子どもたちに、同じひと続きの絵を見せて、作文してもらう。

 国によって説明の仕方に違いがあるとしたら、そこからグローバルな読解力や表現力に関わる本質的なヒントが見えてくるかもしれない。
 「思考表現スタイル」に着目して日米仏の初等教育の比較研究をする渡辺雅子先生に、独自の作文実験を基に話をうかがった。

一言でいうならば、「コミュニケーションの基本となる型」です。私たちが普段ものを考え、他人と会話を交わすときに、取り込んだ情報をどのように編集し納得しやすい形にするか、その枠組みのことを意味しています。国や文化によって思考表現スタイルは異なります。その違いは「語る」ことや「書く」ことの基本型に表れるので、初等教育における国語の作文法と歴史の語り方を中心に比較研究しています。
 その結果、「話し方、書き方の常識」は国によって驚くほど違うことが分かりました。例えば日本では、教科書にこそ書いてありませんが、知らず知らずのうちに「起承転結」が話したり書いたりするときの基本型になっています。ところがこの型は、アメリカやフランスでは思いもよらない奇抜な表現様式として受け止められることが多いのです。だから「起承転結」の方式で議論をしたり、論文を書いたりすると、いくら英語やフランス語が堪能であっても、いったい何をいおうとしているのか理解してもらえないことがあります。
 そればかりか、こうした思考表現スタイルの違いが、例えばアメリカで勉強している日本人の学生がアメリカ人教師から低い評価を受けてしまう原因にさえなっています。つまり、同じ内容を述べるのでも、どのような順番で、何をポイントにして述べるかという思考表現スタイルの違いが、文化固有の暗黙の了解として、学力や能力の評価方法と深く関わっているわけです。そこで、絵を使った作文実験や授業観察を通じて、こうした違いを具体的に明らかにしています。その違いが分かると、例えばPISAのような国際的な学力調査に現れた結果を正確に受け止め、これからの言語教育に生かしていく道筋も見えてくるのではないでしょうか。

絵を使った作文実験では、日米仏の子どもたちの
思考表現スタイルの違いはどう現れましたか。

 ある少年の1日を描いた4コマの絵を見せて、日米仏の小学校5・6年生に説明してもらいました。
 まず自由課題で「少年の一日がどんな一日だったか」を問いました(図表1)。すると、日本の子どもの93%は出来事が起こった順番に書きます。例えば、「けんた君はテレビゲームをしていて、いそいで野球のしあいにでかけ、バスにのったところ、まちがえて、しあいにおくれて、ピッチャーができませんでした」(読点は補足)といったように、「……して」とつないでいく「時系列型」の構造です。フランスの子どもも日本と同じ、時系列型の説明が圧倒的多数を占めました。それに対してアメリカの子どもの場合、時系列での書き方と共に、「この日はジョンにとって最悪の1日でした」と、まず総まとめや評価を書いて、その理由や原因として1日の出来事を述べるパターンが3割強見られました。つまり、出来事を原因・結果で捉える「因果律型」の説明構造です。
図表[1] 4コマ漫画の作文実験(自由課題)

 次に、同じ絵を使った条件課題として、「少年はしょんぼりしています」という文から始めて、この少年の1日がどんな1日だったかを書いてもらいました(図表2)。結果から理由を聞く課題です。日本の子どもは「なぜなら……」と始めて、最初の課題と同じように、出来事が起こった順番にすべてを述べました。アメリカの子どもは時系列型の説明と共に、結果に直接結びつく原因だけを述べて、他の情報をすべて省略するタイプが大勢を占めました。つまり「少年はしょんぼりしています。なぜなら野球の試合で投げられなかったから」で終わりにするのです。このことから、日本の子どもは時系列型の説明を基本にしているのに対し、アメリカの子どもは時系列型と因果律型を課題によって使い分けていることが分かります。
図表[2] 4コマ漫画の作文実験(条件課題)

 ところが、理由付けの条件課題でフランスの子どもは日本やアメリカと顕著な違いを示しました。「時系列」と「因果律」に加え、その二つを統合する「俯瞰型」のスタイルが最も多く現れたのです。つまり、「少年はしょんぼりしています。なぜなら野球の試合で投げられなかったから」とアメリカのように始めて、その後3→2→1とコマを逆にたどって試合後の出来事を創作します。例えば、「野球の試合が終わり、がっかりしていてバスを間違えてしまいました。慌てて帰ったが夕食の時間に遅れてしまい、落ち込んだ気持ちを解消するためにテレビゲームをするでしょう」といった具合に。物語の流れを新たに再構成し直して、少年の1日全体を俯瞰して描こうとするのです。
図表[3] 作文構造の日米仏比較
これらの特徴を整理すると、日本は「時系列型」、アメリカは「時系列型と因果律型を目的に応じて選択」、フランスは二つを統合した「俯瞰型」。こんなに簡単な絵を見るだけでも、受け取った情報をどのように編集して表現するか、3か国で大きな違いがあることが分かりました(図表3)。
高校三年生の大学入試時期であり、参考になればと読んでおりましたら興味深い内容でしたので、掲載させていただきました。
筆者
渡辺雅子
国際日本文化研究センター助教授
わたなべ まさこ

国際日本文化研究センター助教授。
米国コロンビア大学大学院社会学部博士課程修了、同大学院よりPh.D.(博士号・社会学)取得。
著書に『納得の構造 日米初等教育に見る思考表現のスタイル 』(東洋館出版社)、編著に『叙述のスタイルと歴史教育 教授法と教科書の国際比較 』(三元社)など。

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